ある春の日のことです。
13歳のお秋は上野公園へお花見に行き、花見酒に酔う人を見て
さっそく一句浮かびました。
井戸端の 桜あぶなし 酒の酔
そこで上野清水堂の脇にあった桜の枝にこの歌をくくりつけたのです。
少し後にそこへ公寛法親王様がお通りになり、お秋の歌に
目をお止めになりました。親王様はその句がたいそうお気に召し、
歌を詠んだ本人に会いたいと、彼女に謁見の機会を設けます。
ところが会ってみると僅か13歳の少女だった事から
彼女は一躍時の人となりました。
 
そうして彼女は安藤信友の屋敷に招かれることとなり、
滅多にない機会だからと、彼女の父親もお付きの人と成りすまし、
下賜された駕籠に彼女だけが乗り込み、一路お屋敷へ参った帰路の事です。
 
あいにくの冷たい雨が降り始めました。
お秋は「お腹が痛いので薬を買って来てください」と駕籠やさんを止めたのです。
父親を雨の中歩かせて、自分だけが駕籠に乗っているのが心苦しくなったお秋は
駕籠やさん達がいない隙に父親を駕籠に乗せ、父親の身に着けていた
粗末な笠と合羽を身にまとい、そのまま家まで帰ったのでした。
 
しかし家に着き、駕籠から降りる時になるとなんと、
そこにはお付の人のはずの父親がいたのです。
お秋はこのとこはくれぐれも内密にしておいて下さいと駕籠やさんに
お願いしましたが、たちまちこの親孝行な娘の話が広まってしまい、
国周や国芳がその情景を錦絵に描くまでになったのです。
 
ここでは豊原国周作の教導立志基をご紹介いたします。
秋色が父と駕籠を入れ替わった場面の図です。
こちらをクリックして下さい。
 
また、このお話にまつわる秋色桜は
都内にございます上野公園内の清水観音堂脇で、
現在9代目の桜の木が今でも現役で花を咲かせております。
桜の木に関してはこちらをクリックして下さい。

歌川国芳(一勇斎國芳)賢女八景上野晩鐘

尾形月耕 日本花図絵1

教導立志基 豊原国周